「吐き出せば?」
唐突には言った。
俺が顔を上げると、涙で視界がぼやけていると言うのに、そいつだけはやたら鮮明で。
エンボスではなく、クリアな世界にあいつだけが存在しているように神々しく異彩を放っていた。
今まで机を挟んで向かい合っていたけれど、横向きになった。
肘をついて足を組み、耳だけを俺の方に向けていた。
「知っての通り、わたしは切原くんに興味がない。切原くんの話にも興味がない」
何でこんな時に限って、こいつは憎まれ口を叩くんだ。
いや、俺もこいつになんか興味なんて無いんだけれど。
「吐き出せば?」なんて言っといて、ちょっとは話を聞いてやろうという態度じゃねぇぞ。
「何が言いたいんだよ」
ドスを利かせて怒りをぶちまけると、は鼻で笑って「バカだねぇ」と言った。
マジぶっとばしてやりてぇ。このアマ。
さらにムカついて睨みあげると、は薄く笑った。
「興味が無いから、他言する前に忘れちゃうってコトさ」
また笑った。
その笑顔は今まで馬鹿にしてきたような笑い方じゃなくって、微笑みだった。
柔らかくて優しい笑い方だった。
大人が子どもをあやすような。
姉ちゃんと同じ笑い方だった。
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