すると、母さんがいきなりわたしの手から果物ナイフを奪い取った。
突然のことで、何がなんだかわからなくて、母さんに抗うことなく果物ナイフを明け渡した。
母さんは泣いていた。
何を泣く必要があるのだろうか、ただただ泣いていた。
わたしから奪った果物ナイフには、母さんが強引に奪い取ったため、その時にわたしの手のひらが切れたためについたのだろう、血が付着していた。
その証拠にチリチリ手のひらが痛む。
「お願いだから」
母さんは何かを堪えるかのように、その何かが出てこないようにするため、声を振り絞ってわたしに言った。
「お母さんからこれ以上、何も奪わないでちょうだい」
その直後、母さんは涙した。