一般病棟に移って以降、病院の外に植わっている、葉がすっかり抜け落ちた落葉樹のように、わたしの心は空っぽだった。

事故が起こった日からすでに半年は経過していて、初夏の暑い日差しをついこの間までは体感していたのに、今はすっかり冬の空気。

木枯らしがぴゅうぴゅう、病室の窓を吹き付ける。いかにわたしが長く眠っていたのか、イヤでも突きつけられる。




わたしの体の傷は少しずつだけれども、介抱に向かっていて、奇跡的に後遺症も残らなかった。

けれど、わたしが負った心の闇は消え失せてはくれない。

父さんを亡くした悲しみは、当時のわたしには到底受け止められるものではなかった。

毎日、ただ漠然と息をしている人形のように生きているだけ。わたしは考えることを放棄していた。

でないと、わたしは悲しみの波に飲み込まれて狂ってしまいそうだったから。

このまま、父さんの影を引きずって父さんを追い求めて、死んでしまいそうだったから。

それだけは避けないといけない。






わたしには母さんがいる。わたしまで死んでしまったら、きっと母さんは壊れてしまう。

意識を取り戻した時、母さんの眼の下にはクマが出来ていた。

いつも、身なりをキレイにして年齢より若くいたけれど、

わたしが目を覚ました時は髪はボサボサで、頬は痩け、皺も増えやせ細って年齢以上に見えた。

わたしに付き添っている時、母さんはわたしを何処にも行かせまいとするかのように、ずっとわたしの手を握っていた。

わたしが居なければ母さんはダメになる。だから、父さんの所に行きたいけれど、我慢しなきゃならないんだ。

はっきりとした母さんへの思いが、わたしをつなぎ止めている唯一のものだった。








そんなわたしの元に、一人の医師が現れた。











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