「なら…こういう時どうする?」
俺とは生活が全然違うから、どう対処するかも全然違う。
俺みたいに殴ったりしないだろうから、こんなこと言われても答えようがないと思う。
むちゃくちゃ言ってんのはわかってる。でも、俺は…今、どうすればいいかわからない。
なら何か答えを持っている気がする。
を見る。幾ばくかの期待を込めて。
その瞳はまた、驚いたかのように大きく開き揺れ動く。
見たのも束の間、またいつもの何事にも動じなさそうなの顔に戻った。
そして考え込むようにじっと俺を見つめる。
の眼は鋭い。けれども優しい眼をしている。包み込むような暖かい眼だ。
姉ちゃんの眼と似ている。俺もの眼を見た。視線を絡ませた。今、俺の眼にはの眼しか映ってない。
そのくらい、力強く視線を合わせる。
しばらくしてから、は少し間を置いてから、言った。
「許すかな」
は笑った。
そしてまた、こう言った。
「大人に振り回されて憤慨する気持ちはすごくわかるし、わたしだって感情に流されると思う」
でも
「でも、いつまでも怒りに捕らわれていると時間は止まったままだから」
許してあげたいと思う。
日が沈む。
灰色の曇天から漆黒の闇が現れる。
でも、俺の視界は黒には染まらない。明るいままだ。なぜなら蛍光灯が教室を照らしているから。
その白さが黒の世界を浄化していく。蛍光灯の白さが今の俺の道しるべ、俺の行き先。
は白い。この蛍光灯のように白い。肌の色も心も考え方も真っ白だ。汚れがない。
真っ黒になった俺の心を洗い流してくれるように、の存在は俺の中で大きくなっている。
けれど、深い闇の底に居る俺には「許す」ことなんでできなくて、いくらの言うことでもそんなことができない。
そして、なんでそんなことができるかも、わからない。人が出来すぎているとしか言いようがない。
「何で許せんの?」
思わず胸の中の気持ちを言葉に漏らしてしまう。思ったことをすぐ口や態度に出すのは俺の悪い癖だ。
でも、これに関しては聞いておかないといけないと思った。
は困ったように眉をしかめて、寂しそうに瞳を揺らした。「切なそうな」顔をした。
そしてこう言った。
「わたしが、そうやって乗り越えたから」
は徐にスカートのポケットから何かを取り出した。
生徒手帳だ。
の言葉と行動について行けない俺は、ただをじっと見ることしかできなかった。