水をかけられた鉄のように、急速に高ぶっていた気持ちが鎮静化していく。
頭がクリアになって行く。
あぁ、俺ってば暴れちまったんだ。
今の自分は至って冷静で、何が起こったかなんて覚えてなくても大体検討はつく。
姉ちゃんは髪はボサボサだし、服はビキビキに破れてたけど、鼻血と目の上にでっかい痣が出来たくらいでわりと元気そうだ。
俺の攻撃から上手いこと逃げてたようだ。
さっきまでの俺は自分を見失っていたから拳だけが頼りだったけれど、我を取り戻した俺の次の武器は言葉。
姉ちゃんにとってはガキかもしんねぇけど、ガキだから言えることもあるんだ。
正直なのは『ガキ』の特権。
思い知れって思う反面、姉ちゃんに対してどこか裏切られた気持ちが強くて、
さっきまでめちゃくちゃ腹が立ってたのに、今はとても悲しい。そして寂しい。
何で勝手に結婚したんだよ。
そんな大事なこと、何で俺に言わないんだよ。
姉ちゃんにとって俺ってその程度な存在なワケ?
姉ちゃんは泣いてばかりいる。
そんでひたすら俺に謝る。
泣いて済んだら誰も苦労なんかしねぇよ。つか、泣きたいのはこっちだよ。
何も言わずに籍入れるとか、明らかに俺を信用してねぇ証拠じゃねぇか。
十年以上も一緒に居る人間よりも、たった数か月の短い付き合いの人間のが信じられんだ。
俺がそこまで反対すると思ったのかよ。
俺だって一言声かけてくれりゃ、こんなことしなかった。
あんたらにとっては俺はそんなにガキかよ。
融通利かないからって力でねじ伏せて、ガキだからってガキの意志は無視して。
そんで都合が悪くなったら泣いて泣き寝入り?
それで許してもらえると思ってんの?
つか、それが大人のすることかよ。どうなんだよ。
今まで姉ちゃん姉ちゃん言ってた自分が馬鹿みたいだ。
こんな自分に都合のいいヤツ、俺の姉ちゃんじゃない。
俺の知ってる姉ちゃんは、優しくてその中に芯のある人だった。
目の前にいるのは姉ちゃんじゃない。
姉ちゃんの形をした別の何かだ。
こんな女、俺は知らない。