ある日。
今日みたいなしびしび霧雨が降っていたある日。
姉ちゃんは男を連れてきた。
姉ちゃんの彼氏だと言った。
姉ちゃんと結婚したい、とも言った。
男はひょろりとしていて背が高かった。
ちょっとパンチでもすると、ぼきっと折れてしまいそうなほどで。
たとえるならゴボウ。
お世辞にも格好いいとは言い難い。そんな男だった。
何をさせてもどんくさい。
テニスでも、ゲームでも、腕相撲でも。何一つ年下の俺に敵うものはなかった。
負けるたびにいつも、「赤也くんには敵わないなぁ」とヘラヘラ笑って。
男なんだからもっと悔しがれよ。本当に男らしさの微塵もないゴボウだ。
ゴボウは姉ちゃんの前でもダメさ全開で、「また負けちゃったよ」と情けない声で姉ちゃんの側へと向かう。
デレデレして下心丸だしで。
気持ち悪いくらいに鼻の下伸ばして。
そんなゴボウを姉ちゃんは優しくオブラートのように包み込む。
「ダメじゃない。中学生に負けっぱなしで」と笑いながらも、幸せそうにゴボウと話す姿は。
そして時折見せる笑顔は、俺に見せたことのない笑顔だった。
女の顔、だった。