ゴボウにしか見せない笑顔が姉ちゃんにはある。
それを知った瞬間、なんだか腸が煮え繰り返りそうなくらい、ゴボウに嫉妬した。
姉ちゃんは全くあんなひょろひょろで、中学生のガキにも負けるようなヤツのどこがいいんだ。
あいつなんかより、俺のほうが全然かっこいいし断然強い。男らしい。
俺のほうが姉ちゃんにふさわしいに決まってる。
弱っちいくせに、姉ちゃんにヘラヘラ笑いやがって!気持ち悪ぃ。
初めて姉ちゃんが連れて来た時から俺はゴボウが嫌いだった。
ゴボウは明らかに姉ちゃんが好きだったし、姉ちゃんも満更じゃない。
二人はすでに恋人同士だったけど、俺は納得出来なかった。
弱っちいゴボウに姉ちゃんを守れるなんて思わなかった。
それに。
弱いくせに、一人前に「油断」ということをするところが一番嫌いだ。
ゴボウはいつも、俺との勝負で手を抜いている。
最初、そんなこと知らなくてただ単に弱いだけの男だと思ってた。
それを知ったのはゴボウが家に来て5回目くらいのこと。
姉ちゃんの部屋で会話をしていたのを立ち聞きして知った。
「今日はごめんなさい。赤也が…」
「いいさ。相手は子どもだ。気にしてたらキリないよ」
「中学生の赤也にわざととはいえ負けるなんて…あなたも悔しいでしよ?」
「いや、いいんだ。
テニスに関してはガチで負けてるし…ここで赤也くんの機嫌を取っておかないと。
いつまでも結婚に反対されたままだと気持ちよくないよ」
ゴボウと姉ちゃんを軽蔑した瞬間だった。
二人してガキ扱いして、俺がこんなことをされて嬉しいとでも思ったかよ。
ズルされて勝って喜ぶとでも思ったかよ。
それでゴボウを気に入って結婚を認めるとでも思ったかよ。
ふざけんな。
ガキだからってなめてんじゃねぇぞ。
だてに王者立海の名を背負ってねぇんだ。
ぎゅっと握り拳を作ると、掌がとても熱かった。
流れる液体の色は赤。俺と同じ名前の赤。
俺はその時に絶対に結婚を許さないって決めた。
手を抜いた相手に勝ったって、何も嬉しくねぇし意味もねぇ。
ただ、俺のプライドをズタズタにして、それを見て笑ってたっていう事実が許せなかった。