冬が来た。
先生と初めて会った日と同じ、木枯らしがぴゅうぴゅう吹き付けるある日のことだった。
わたしは母さんにリンゴを剥いて貰っていた。この季節が旬のリンゴは蜜がたっぷりで甘い。
最近のわたしの楽しみはリンゴを食べることで、毎日のようにわたしはリンゴを母さんに持ってきてもらっていた。
母さんは料理がそんなに上手じゃないから、リンゴの皮向きなんて出来やしない。
剥けたとしても、時間がかかりすぎて酸化し、茶色くなってしまう。
うさリンゴなんて、母さんが作ると得体の知れないものになる。
それでも、母さんはわたしのために一生懸命剥いてくれていた。
剥き終わる頃には、茶色くなって、さらに母さんの体温でリンゴはすっかり温くなってしまっているけれど、
母さんの優しさが伝わってくるような気がして、わたしは好きだった。
母さんはリンゴを剥き終えると、果物ナイフを見ながら「あいじ」とわたしに声をかけた。
「…一緒にお父さんの所…行こうか」