庭科の調理実習、柳くんとだけは同じ班になりたくなかった。
神様はどうしてわたしに罰をお与えになるのだろうか。(神様って言ってるけど、わたしはカトリックでもプロテスタントでもない。ただ形だけは浄土真宗信者の無宗教者だけど)
そんなの贅沢な悩みだと言う人はいるけれど、その人は柳くんの恐ろしさを知らないからそんなことを言ってのけられるんだ。絶対そうだ。
柳くんと同じ班というだけで、地獄を見るんだよ。あぁ、なんて恐ろしい!
て、思わず取り乱してしまいました。いきなり柳くんを非難しても、彼の何が駄目なのか。地獄なのか。よくわからないもんね。
いいよ、わかった。説明してあげる。



柳くんのおっかないところ。
その1、味オンチ。
ほら、実習ってさ。自分の好きなように味付けできるじゃないですか。濃いめが好きだったら濃いめで、甘めが好きだったら甘めで。
あたしは正直、濃い味付けのものが好きなわけよ。
ラーメンとか、ハンバーグとか、カレーとか(ちょっと。全部、子どもが好きな食べ物じゃん!とか野暮なこと言うのは控えるように!)
チョコレートだって、あっさり甘めより、甘さの中にもビターの濃厚な味が欲しいワケ。でもね、でもね!




柳くんとあたしの味覚は正反対に違うわけよ。




柳くんは薄い味付けのものが好き。
たとえばラーメン屋さんに行ったならば、わたしは味噌とんこつ、柳くんは魚介類で出汁をとった塩。
冷やし中華を頼んだなら、わたしはマヨネーズと芥子をかけるコテコテ派、柳くんはタレを水で薄めたくらいがちょうどいいそうだ。



まぁ、あたしもこってりしたものが好きって言っても、あっさりしたものを否定する気もないし、嫌いじゃないよ。ただね。





度が過ぎたのはいくらなんでもキライなんだよね。







柳くんの場合、薄味を通り越して味がしないものが好きなんだよ!
さっきの冷やし中華だってタレ1に対して水3くらいで薄めるし、ラーメン屋行ったとしてもスープにお冷やどんどん足して薄めるし、有り得なさすぎ!
(だったら最初から行かなきゃいいじゃん!)
この間の調理実習で一緒に親子丼を作ったんだけど、醤油入れたのかっつーほどの味の薄さで、食べれたもんじゃなかったっていうか?
ペットの飯食ってんじゃないんだからっていうか?
「素材の味が生きてるね」って嫌みのつもりで言ってみても「どこかの誰かと違って素材の味を消すような味付けをしないからな」とさらなる嫌みで返されるし!
(濃い味が好きなわたしが味付けをすると、濃すぎで素材の味が薄れるって言いたいらしい。失礼ね!)




で、2つめは。
有無言わさないとこ。
柳くんって意外や意外に自己中なんだよね。理屈たれだし、思春期の娘を持つオヤジみたいにウザいとこあるんだよね。
たとえばさっき話した親子丼作る時でもさぁ。「醤油辛い確率100%」とかさ。
そりゃあ、あんたの物差しで測れば何でも味が濃いでしょうよ。で、そんなのいつものことだからドボドボお醤油入れるじゃない?そしたら柳くんってばね。
その倍の量の水を入れるわけ。
「何すんのさ」と抗議をしても普通に無視!「他の班は分量通りに作ってるのに、なんでそんな余計なことすんのさ!」と半ばキレてるわたしに、柳くんってば何て言ったと思う?





「うちはうち。よそはよそです」




お前はおかんか!




そんなツッコミを内に秘めるだけ。わたしは柳くんに言うことができなかった。つまりは負けを喫した。





それ以来、調理実習で同じ班になりたくない人第1位は柳蓮二その人なわけで。
けれども今回もまた。わたしは不運なことに柳くんと同じになってしまった。
あり得ない。有り得無さすぎる。
班分けの時点で真っ青になり、声を失うわたし。ふと顔を上げると、たまたま柳くんと目があった。その瞬間。




あの糸目、鼻で笑いやがった。




まるで、バカを見るかのように。




ムカついたわたしだけど、柳くんに勝てるだけの口も度胸もないから「てんめぇこのクソ柳ぃ」とけしかけるのはやめておこう。