楽の時間、隣の席の真田くんは面白くて仕方がない。



真田くんといえばその体格に似合ったおっさんくさい話し方で(おっさんっていうか…大河ドラマ口調)かなり頭の固い人。鉄以上に硬いかもしれない。その反面、他人だけではなく自分に対しても厳しく、一度した約束は破らない人らしい。自分に自信を持っている人だ。…まぁ、自分に自信を持ってるってことは悪いことじゃないからかまわないけどさ…。常に自信満々でいられるのもかまわないけどさ。それが、音楽の時間でもってなると本当、ちゃんちゃら可笑しくて仕方がない。

て、いうのも真田くんに音楽は似合わないんだよ。根本的に。

真田くんに似合いそうな楽器っていうのは尺八とか三味線であって、けっしてリコーダーとかギターではない。
真田くんに似合いそうな歌っていうのは浪曲とか演歌であって、けっして「サンタ・ルチア」とか「エーデルワイス」ではない。
真田くんに似合いそうな授業っていうのは「日本史」「体育」であって、けっして「音楽」「家庭科」ではない。


つまり、何が言いたいかというと、「真田くんと音楽」っていうのはもう、ギャグでしかないと思う。


真田くんはいつもリコーダーを吹くとき、遠慮を知らない。本人が力強い性格をしているからか、笛にこめる思いもかなり力強い。
ようは強く吹きすぎて、音が裏返るんです。その裏返り方が異常で全ての音が、「プピー!」を裏返るものだから。しかも本人が裏返ることに対してあまり気にしていないからなのか、吹き終わった後に「やはりリコーダーはアルトだ。ソプラノは小さくて扱いづらいからな」なんて見当違いなことを話しかけてくるもんだから、「ちげーだろ。問題はそこじゃねー」って思ったけど、「わ…わたしは指短いからな…」て必死に笑いをこらえて真田くんに返しといた。でも内心、おかしすぎて腹筋つるかと思った。

さらに、歌う時になると彼の本領がスーパード級に発揮される。
彼の口からは校歌とフォークソングと演歌と軍歌以外、聞きたくなかった。
そんな古めかしい彼がSMAPとか歌うのを聞きたくなかった。
一番聞きたくなかったのはミスチルの「cross road」。
ノリノリで大声で「オーイエス!オーイエス!」とか歌ってるのを聞いて、マジで吹きそうになる。
その場で大笑いしてしまいたい。
真田くんから英語が、しかも若者文化の象徴・ミスチルを熱唱だなんて。ありえない。
歌い終わったあとに、真田くんが真顔で「オーイエス、オーイエス」といまだに鼻歌で歌い続けるもんだから、わたしのお腹は尚も悲鳴を上げ続ける。さらにさらに。歌の最中は笑いそうなので、声を抑えて歌っていたのを聞かれていたのか、「声が小さいぞ!たるんどる!!」と怒られてしまった。てめぇのせいだよ。


真田くんはいつもわたしに「笑い」というマシンガンを乱射してくれる。
真田くんの場合、「マシンガン」なんておしゃれなものではなくて、「火縄銃」かもしれないけれども。
きっと真田くんはわたしを笑い殺したいんだ。
わたしを死なせたいんだ。
でなきゃ、毎時間毎時間こんなにボケをかまさないはずだ。





「今日は『世界に一つだけの花』を歌うらしいぞ!」





こうして、今日もわたしは真田くんの餌食となり腹筋を鍛えられ続けるのです。