Chapter 1. Hansel suffers from the spirit. Gretel has gone mad
          (歪んだヘンゼルとグレーテル)











わたしと兄は世間一般的に見て仲が良い方だと思う。中学生になっても、一緒に登下校したり、一緒にご飯を食べたり、休みの日は一緒に遊んだり。家でも、同じ部屋の同じ布団で一緒に寝て、お風呂にも羞恥もためらいもなく一緒に入ることが出来る。


こんなこと、普通の兄弟だったらしないんだろうけれど、わたしたち兄妹にとっては日常茶飯事であり、何ら驚くことのない普遍事項なのだ。


中学に入って、兄がテニス部に入ってからというもの、わたしに対する風あたりは穏やかなものではなく、妹であるというだけで周りから蔑まれたり、取り入ろうとしたり、人によっては対応はまちまちであるけれど、人間の欲というものはこんなにも醜いのだろうか。少なくともわたしではなく、兄を意識した行動であり、わたしに何かしらのモーションをかけることによって、兄からの恩恵を受けようという魂胆が丸見えだ。
兄もそのことに気づいているようで、わたしに対する配慮を怠ることはない。わたしにつく悪い虫は全て兄によって排除される。排除方法は兄が独自でしていることなので、どう排除しているのかはわからないけれど、兄のお陰でわたしが他者によって丸め込まれたりすることは全くない。兄によってわたしが守られていることは明確であり、周知の事実でもある。



だから、わたしの周りには人がいない。




兄があらゆる者からわたしを守ってくれているから、わたしの周りに人が集まらないのだ。
だから、友人も居なければもちろんのこと彼氏もいない。
家族ですら、わたしの間合いには踏み込めない。
兄だけが、わたしの側にいることを許されているのだ。
兄がわたしの友人であり、彼氏であり、家族である。
兄がわたしに必要な全ての役割を請け負ってくれているのだ。




「無垢な世界で、無垢なままで」
兄はわたしに対して常に口にする、いわゆる所の口癖のようなものだ。
わたしを俗世間の人間と交わらせることがないように、またわたしも交わることがないように。
世間の汚れを穢れを知ることなく、綺麗なままで。
兄はわたしにそうあって欲しいと願っているようだ。
わたしもできるだけ、兄の希望に答えられるように努力はしている。




また、兄もわたしに対して理想の兄でいるよう努めている。わたしが理想とする兄はわたしからいつ・いかなる時も離れない兄であり、わたしを慈しみ愛してくれる兄だ。
わたしが傷つき、立ち上がれなくなった時。
そっと手を差し伸べ、柔らかく笑って「大丈夫だよ」とわたしを抱えてくれるような兄だ。
最も、兄はわたしが傷つくことを嫌うから、そうなる兆候・要因があれば片っ端から芽となるものは潰すだろうけど。
つまりは、兄はわたしの理想を超越した存在なのだ。




たとえ、世界がわたしを拒んだとしても、兄はわたしを拒まない。わたしも兄を拒まない。
異常だ、と罵られても。偏見や好奇の目で見られたとしても、わたしたちは離れない。
だって、わたしと兄は同じ種から生まれた者同社。
遺伝子学における、たった一本の線で結ばれる横のつながり。
父と母が植えた木から咲く2つだけの花。




誰にもわたしたちを虐げる権利はない。
入りこむ隙間もない。
わたしと兄が繋がる運命線を断つことはできない。神にもできない。




わたしたち兄妹が生まれたという事実がある限り。


ヘンゼルとグレーテル(Hansel and Gretel)
両親に疎まれ捨てられ、魔女に捕われるもお互いに助け合って生き抜いた兄妹の話