光陰矢の如し。

胸に白い造花をつけた柳くんが壇上に立って在校生に対して答辞を読み上げる。

四方から聞こえるすすり泣く声。立ち上がり、座るたびにガシガシとぶつかり合って鳴るパイプ椅子。

みんなお揃いの白い花を左胸に咲かせ、みんな同じ台詞を卒業生の言葉として在校生に投げかける。

3月。

わたしたちは卒業する。














早春賦





式が終わり、友人たちと別れを惜しむこともそこそこに、誰もいない静かな教室でわたしはただぽけっと突っ立っていた。窓から見えるのはまだ固く芽を閉じて、覚める気配のない桜の木と、デジカメや携帯で写真を取る生徒たち。泣いている子もいれば、終始笑っている子もいる。中には泣き笑い?笑い泣き?どちらとも判断つかない子もいる。聞こえるのは、彼らの声だけ。電気もついていない教室は寂情に包まれている。






つつ、と目を違う方へ動かせば、テニス部の子たちが女の子にもみくちゃにされていた。幸村くんと柳くんの姿は見えなかったので、どうやら逃げ仰せたようだ。要領のいいあの二人らしい。後の部員は逃げ遅れたらしく、ボタンどころか着ぐるみ一式剥がされそうな勢いだ。

なんだかんだで囲まれて困り果てている真田くん、頭をぺしぺし叩かれている桑原くん、
ぼっさぼさの髪で眼鏡がずれかけている柳生くん、目尻に涙を浮かべて悲壮な顔をしている仁王くん、
丸井くんなんか女の子の山で埋もれて全く見えない。壮観すぎる。




思わず、笑みをこぼす。がんばれ、と心の中で両者にエールを送る。
羊たちにはがんばって逃れてくれ、狼たちにはがんばってもみくちゃにしてくれ。
そして、わたしを楽しませてちょうだいな。
そう思って高見の見物をしているわたしはさながら神様のよう。気分は悪くない。







上からニヤニヤしながら眺めていると、静寂な教室にバタバタという何かを力一杯打ちつけているかのような音が近寄ってくる。人の足音、走る音。最初、遠かった音は次第に近く、わたしの耳に飛び込んでくる。すぐに、足音はピタリと止んだ。そのかわり、「はぁっはぁっ」という荒い息が聞こえる。運動をした後のそれだ。力強かった足音から判断するに、きっと全力疾走をしたのだろう。そして整えている呼気から漏れ出す掠れた声の太さで、足音の主は男だと思う。荒い息も徐々にフェードアウトした頃、次にわたしの耳に入って来たのはガラリ、と扉を開ける音。なかば反射的に開けられた扉の方を見ると、予想通り男の子がいた。






ただ、その男の子が、わたしが予想もしていなかった子だったから。

彼を視認した直後、わたしはただただ驚くしかなかった。








その子はもじゃもじゃしたくせ毛が特徴的なテニス部の男の子、切原赤也くん。





やはりテニス部だということと、顔立ちも端正だということから、一般生徒で知らない人間はいないだろう。
わたしもその例から外れない。
けれど、わたしは誰よりも先に彼のことを知っていた。
何を隠そうわたしは、二年前の入学式で、新入生である彼の胸に、新1年生の証である花をつけたことがあるのだ。その頃の彼は、くりくりした可愛い男の子だった。真っ白な肌に短めのクリクリした髪、いたずらめいたアーモンド形の大きな瞳は和製版の天使のように可愛いすぎた。そんな神からの使いを相手に、わたしが正気を保っていられるはずもなく、手元が狂って何度も彼の胸にダイレクトに針を刺してしまった。そして、何度も何度も「ごめんね」と、最後には上手く花がつけられないことに対する焦りと、彼に対する申し訳なさに、泣きそうになりながら謝罪するわたしに「いっスよ。へっちゃらっス」と笑って許してくれたその笑顔は強烈に可愛くて、わたしの心を鷲掴みにした。その日一日のテンションが上がったことは言うまでもなく、またその笑顔にも心を奪われたのはご察しの通り。








けれど、彼がその後、テニスで活躍をするに連れて彼が雲の上の存在になって行くのを感じた。ただ、胸に花をつけただけでおこがましいけれど、つい最近まで少しだけ身近に感じていた彼が、どんどんスターになっていくようで一種の寂しさを一方的に感じていた。その反面、切原くんを最初に目をつけた、発掘したのはわたしだ、と宝石の原石を最初見つけたような喜びと、周りの女子たちに対する優越感を感じていた。男を見る目がある、と一種のトレンドを先取りしている気分になったのも確かだ。









今、目の前にいる彼は、入学当初、わたしより低かった身長はすでにわたしを追い越しており、ダボダボだった制服はいつの間にか腕の丈が足りなくなっていた。まだあどけなさは残るけど、着実に大人の男の人に近づいているようだ。




彼はゆっくりとわたしに近づいてきた。まだ、完全に息は整っていないらしく、肩を上下させている。走ったせいでほのかに蒸気する頬が、何とも艶やかだ。思わず彼の扇情的な美しい顔に見惚れてしまう。わたしの心拍数も徐々に上がり始めた。





彼はわたしの前、距離にして1メートルくらいだろう、までやって来て、きっちり締められていないネクタイをおもむろに解き始めた。



何が起こるのだろう。いきなり押し倒されたりするのだろうか。
予想もしていない出来事に、わたしの頭はあられもないことを想像、いや妄想してしまう。まさか、そんなわけあるはずがない。とは思っていても、何かしらを期待してしまう。いつからわたしはこんな浅はかでやましい人間になったんだろう。そうだ、切原くんに出会ってからだ。切原くんがわたしをおかしくさせたんだ。
恋というものは恐ろしい。





ネクタイを解いた切原くんは、そのネクタイをわたしの前に突き出した。そして、ネクタイを突き出していない別の手で穴が空いたジャケットのポケットをまさぐった。そして出てきたのは、淡いピンクの封筒だった。







「これっ…」







たった一言だけ、小さく口早に言葉を紡ぐ切原くんは、わたしの顔を見ることなく、俯いてずいっとネクタイと封筒をわたしの前に突き出す。これはわたしにくれる、ということを示しているのだろうか。そう考えるのが自然だ。そうでないと、何のためにネクタイを解き、封筒(おそらく手紙)をわたしに突き付けているんだろうか。









「くれるの?」








確認のため、彼に伺うと、ブンブンと無言で。ものすごい勢いで首を縦に振った。その仕草が、小さな子どものようで可愛い。






どうしよう。
なんかよくわかんないけど、すごく嬉しい。





切原くんがわたしにプレゼントだなんて、信じられない。入学式の一件以来、わたしは切原くんと話すことなんてなかったのに、その彼が。わたしなんかのために、わざわざ走ってここまで来て、ネクタイと手紙をくれるなんて。信じられない。これは夢なんだ。夢に決まってる。日頃、妄想ばかりしてお腹いっぱいにしているわたしを見かねた神様が見せてくれている夢なんだ。









「ありがとう…うれしい…」







夢だけれど、嬉しくて泣いてしまいそう。夢なら一生覚めないで。夢ならわたしを深みまで落として。
嗚咽で震えそうになる声で、彼の2つのプレゼントを受け取る。そのときに彼の指の先や、伝わる熱をわたしの指越しにリアルに感じてしまって、それが嬉しくてたまらなくて。思わず泣いてしまった。思いっきり嗚咽を鳴らしてしまった。






ずっと俯いていた切原くんだけど、わたしの異変に気づいたらしく、ぎょっとびっくりした表情でわたしを見る。
切原くんは悪くない。何も悪いことをしていないのに、驚かせてごめんなさい。ただ嬉しかっただけなんです。あなたとこうして対峙することも、この思いを伝えることも、それすらもなく卒業するものだと思っていたから。不完全な形でこの思いは終わってしまうのだ、と思っていたから。信じられなくて、泣いたんです。





わたしは切原くんにただ「ありがとう」と言うことしか出来なかった。ありがとう。今日来てくれてありがとう。プレゼントをありがとう。最後に思い出をくれてありがとう。たくさんのありがとうをあなたに。











「本当にありがとう」









涙が頬を伝うけれど、わたしは精一杯の力を振り絞って笑った。上手く笑えただろうか、それはわからない。切原くんだけが知る。




ぼろぼろと涙をこぼすわたしを見ている切原くんは、柔らかく笑った。わたしが見る限り、普段はぎゃーぎゃー騒いで大口を開けて笑っている彼が、こんなに優しく穏やかな顔をするとは思わなかった。









優しくて、暖かい、わたしのすべてを包み込むような男の人の顔だった。

そして、その笑顔をわたしに向けたまま、こう言った。











「俺、今日ずっと部室に居ますから」










手紙読んだら、来て下さい。







切原くんは泣きじゃくるわたしの頭を手のひらでぽんぽんっと軽く、慰めるように叩くと、先ほどとは打って変わってゆっくりと地面を確かめるように教室を出ていった。乱雑な足音はせず、ひたり、ひたり、と静かに、それでいて規則的に足音が遠ざかっていく。










手紙。
手紙を読むように、切原くんは言った。一体、何を書いてくれたのだろうか。わたしと彼はほとんど話したことがないというのに。けれども、わたしにこうやってわざわざ手紙をくれるということは、少なくともわたしに対する嫌がらせではなさそうだ。嫌がらせなら、一々手紙なんか書かないし、わたしを追って走ったりしないし、あんな優しい顔で笑ったりしない…と思う。
なんだか不安になってきた。何かの罰ゲームなんじゃないの?と思ってしまう自分がいる。









でも、いくら考えても始まらない。治まらない嗚咽をかみ殺しながら、彼の書いた手紙を読むことにした。
封筒を開けると、仄かに柑橘系のさわやかな匂いがした。便せんにでも匂いがしみついているのだろうか。いや、故意に匂いをつけついると考えた方が妥当だ。
便せんを取り出すと、さらに匂いが広がったことから、便せんに匂いをつけたのは確定的らしい。
便せんの出だしには男の子らしい角張った大きな字で、「送辞 2年D組6番 切原赤也」と書かれてある。どうやらわたしに送辞を書いてくれているようだ。

その下に書かれてある文に目を落とす。ペンで一発書きをしたであろうその字は、同じく角張った字で、所々震えている。かなり丁寧に書いているように見受けた。彼なりにがんばった感じが見受けられて、ほほえましく感じた







便せんの字に目を落とす。








                             

送辞
                           2年D組6番 切原赤也




光陰矢のごとし。

挨拶で柳先輩が使ってたから使ってみました。
よくわかんねっスけど、こういう時に使うんっスよね?ですよね!?








出だしから思わず笑ってしまった。丁寧に字を書いていても、書き方から彼の明るい人と形が表れているようだ。



どんなおもしろいことが書いてあるんだろう。と、わくわくしながら続きを読む。









えっと、何から書けばいいかすっげぇ困ってんですけど(手紙とか書くのとかすっげ久しぶりで…すんません)とりあえず、先パイ。卒業おめでとうございマス!そんで、俺!切原赤也っていいます!テニス部の現・部長っス!9月25日生まれ、O型、国語は点数そこそこ取れるけどすっげぇ得意だって胸はれねぇからおいといて…あ!体育はすっげぇ得意っス!
つっても、俺と先パイはほとんど喋ったこともないし、いきなり手紙とか渡されて「何コイツ?」とか思われてそうだけど。はは。


実は俺と先パイ、入学式の時に一回会ってるんっスよね。先パイが俺に花つけてくれたの、覚えてますか?先パイってば、やったら緊張して俺にブスブス何回も針刺してたんっスよ。あん時、先パイはたぶん俺がイラっと来てんだろなって思ってたんだろうけど、ぜんぜんそんなことねっスよ。むしろ、泣きそうになりながらガンバってんの見て思わず「がんばれ」って応援してしまいました。なんか目が離せなかったんっスよね。

入学式終わった後、先パイを見る機会はがくっと下がっちゃったけど、球技大会とか体育祭とかで先輩を見るたびに、影ながら応援してました。
球技大会のドッジボールで最後の一人になってまで必死になって逃げまくってた先パイ。
しかも、ボールが当たりそうになったら必ず頭で受けてセーフにしてた先パイ。(すっげぇ捨て身戦法で思わず感心しちゃいました)
でも、先パイのがんばりとその機転がチームに志気を戻して、いつのまにか逆転してた時は開いた口が塞がんなかったス。きっと先パイには人を巻き込む力があるんだって、思いました。



今年の体育祭の障害物競争で、平均台から足を踏み外して怪我をした先パイ。先パイがいきなりこけちゃったから、笑ってた奴もいた。けれど、人に笑われても最後まで投げ出さずに笑って走りきった先パイはかっこいいって思いました。順位とかそんなんじゃなくて、何かうまく言えないけど、結果だけがすべてじゃないって思ったんです。なんか心がこうぎゅっと、締め付けられるような、やるせないような。でも甘い感じにさせられて、気づいた時にでっけぇ声で先パイにがんばれって応援してました。…聞こえてなかったと思うけど。



こんな風に、俺が見かける先パイはぶっちゃけ、いっつもどんくさいです。(すんません)でも、すっげーかっこいいです。どんなに惨めな目にあってぶっさいくになっても、先パイは絶対に諦めたりはしなかった。無理だと決めつけるようなことはしなかった。投げやりなこともせず、ただ目の前のハードルをクリアしようとがむしゃらだった。どんな形であっても、先パイは必ず勝利を得ていた。もちろん、卑怯なことはせず、努力でそれをさらって行った。





いきなりなんスけど、俺はそんな先パイに憧れてたんっスよ。てのも、先パイも知っての通り、うちのテニス部には化け物が3人もいやがって。そいつらにはどうあがいても勝てそうにないって、ちょっとへこたれてた時に球技大会があった。そんで、そこで俺は先パイの勇姿を見て、純粋にすげぇなって思ったんです。ただ、ブスブス針を刺して焦ってる人じゃなくて、ハングリー精神旺盛な人なんだって。
そのとき、先パイに対する意識は先パイ自身にがらりと変えられました。そんで、イベントごとに先パイはかっこいいとこ見せてくれちゃうもんだから、俺はすっかり先パイを目で追っちゃうようになってたんです。またなんかやってくれないかな?て期待するようになってたんです。知ってました?





卒業が近づいてくるにつれて、俺は後悔をしだすようになりました。先パイを見かけたら何でもいいから挨拶しときゃーよかったって。接点作っておきゃよかったって。そうすれば、卒業した後も先パイと連絡取れるかもしんねぇし。
ぶっちゃけ憧れだけで終わらせたくなかったんっスよ。憧れるだけだったら、動かなかったらなんにも変わんねって。わかってたからなおさらです。
本当は先パイがやってくれたように、俺も先パイに花をつけたかった。そんで「昔、先パイも俺につけてくれましたよね」ってアプローチをかける予定だったんですけど……俺は男だから先パイの胸にタッチするような真似をしてはいけないそうなんで、花をつける役になれませんでした。すっげ、残念。つか、別にやましーことするわけじゃねんだからいーじゃん。ねぇ、先パイ。思いません?





で、話が反れちまったんで元に戻します。
先パイと仲良くなる方法が花をつける以外、方法が思いつかなかったけど…他に効果的な方法もないので俺、決めました。
先パイにこのネクタイを渡して、俺の気持ち、伝えます。




口で言うのは恥ずかしくて言えそうにないから、手紙にしました。ついでに言っとくと、封筒開けたらミカンの匂い、したと思うんスけど、これは幸村部長のはからいです。便せんと封筒も幸村部長に選んでもらいました。(だって、こんなことしたことないから、全然わかんねっスもん)





ところで先パイ、俺がネクタイを渡した意味、わかりましたか?それはネクタイが俺の心臓の位置に一番近いからです。本当なら第二ボタンだけど、うちはこの通りブレザーだから、第二ボタンは心臓から遠いんスよね。かといって、カッターの第二ボタンだと地味になくされそうなんで(笑)だからネクタイにしました。
これを俺の心、気持ちだって思ってください。そんで、俺の気持ちを受け取ってください。俺の心をずっと持っててください。ちなみに返品されたらマジ泣くんで、返品しないでください。お願いします。





で、もしよかったら。
先パイの心を俺にください。
いきなり何言ってんだって思うかもしんねぇけど、俺はマジですから。

もちろん、先パイがくれるって言うんだったら一生、大事にします。先パイの心を箱に入れて金庫の中に厳重に閉まって、暗証番号も絶対誰にも知られないように、俺の足のサイズにしときます。そんだけマジなんです。

たとえ、もらえなかったとしても奪いに行きます。先パイの心をさらいます。そんで、俺がいないとやってけないような状態にしてやります。そんだけマジなんです。






長々と書いたけど、さっきも書いたように俺は憧れで終わらせる気はさらさらありません。
先パイはぶっちゃけマジで頼りないし、どんくさいし、年上なの?て突っ込みたくなるような人だけど(言いたい放題ですんません)
俺にあきらめないっていう根性を教えてくれた人です。
絶対、仲良くなってやる。



それから先パイは俺の初恋そのものだから。(くっせ!)
初恋は実らないっていうけど、俺はそんなの信じない。
努力もせずにあきらめられっかっての。




だから先パイ、俺にチャンスをください。
先パイをぜってーメロメロにしてみせるから、時間をください。
そんで来年、俺が高校に入学する時、また花をつけてください。
そん時に先パイの返事、聞きますから。




じゃ、先パイ。覚悟しといててくださいね!

それともっ回、卒業おめでとうございます!













切原くんらしいというか、なんて言うか。最後の方は気分が高ぶってきたのか、字が乱雑に跳ね上がっていたけど、それだけわたしを好いてくれてるのかな?と思うと、嬉しくて嬉しくて涙がまた出てきた。ところどころ失礼な部分もあるけれど、怖いもの知らずの切原くんだからこそできるんだろうな。




球技大会も体育祭も見てくれていたんだ。わたしなんか、何百人の中にいる米粒と同じなのに。彼はわたしを見て、応援してくれていたという。意識していない行動を評価してくれたんだと思うと、わたしを認めてくれた気がして本当に嬉しい。




切原くんがあんなに優しい顔をしたのは、きっとわたしの気持ちを理解したからかもしれない。子どものように涙をこぼすわたしを気遣って、あえて教室を出て行ったのかもしれない。




そんな考えはいつもの妄想だけど、考えのバックボーンには手紙とネクタイという物的証拠がある。これがある限り、わたしは永遠に夢から覚めることはない。







卒業生の特権、今日は大泣きしてもいい。涙がちっとも治まらないけど、気にはしない。一刻も早く、切原くんに会いたい。彼がいるという部室に行こう。そして、ネクタイを解いて、彼に渡そう。手紙を書いている暇なんてないから答辞は口で伝えよう。
わたしの心は、すでにあなたのものだからって。


切原くんのネクタイと手紙をポケットにしまい込んで、わたしは足早に教室を出た。これから起こる事態に胸をときめかせながら。そして、
これから始まる未来に胸を踊らせながら。