先生を好きになったのは突然だった。



カテキョの先生との出会いはカナリ悲惨。
初対面でオレは靴下を先生の顔にぶつけてしまって、臭いがヤバかったのか(部活してたのと同じ靴下だったからなぁ)
先生はエレエレ吐いちゃって、半ばグロッキーになってた。(さすがのオレもちょっと申し訳なく思った)

でも授業になると、「大学生・」から「カテキョの先生」に変身したみたいに人が変わって、
さっきのグロッキーはどこに行ったんだろうってくらい、めちゃめちゃハキハキ喋るし、オレに突っ込みは入れてくるし(オレの靴下を兵器呼ばわりしたのはちょっと傷ついた)
何よりも先生は、グロッキーになった後だというのに、しっかり分かりやすく英語を教えてくれた。

このとき、オレは「この人…さっきまではしんどそうだったのに…すげぇ」とちょっと関心してしまった。





先生がいくら尊敬できても、勉強そのものがオレは嫌いなわけで。
ある日、オレは気分転換に先輩達と焼肉を食べに行った。
もちろん、授業までには帰るつもりだった。
でも、思った以上に盛り上がったもんだから、授業そっちのけでオレは焼肉をエンジョイしてたワケ。
食い終わって一服して爪楊枝で歯を掃除しながらケータイをぱかっと開くと



着信履歴が姉貴で全部埋まってた。



授業なんかとっくに始まってることをも知る。



これはヤバイ!とわたふた慌ててると、オヤジからの「帰って来い」電話。
オヤジは普段、のほほんとジブリにでも出てくるような癒し系オーラ出してるけど怒るとマジで怖い。
いつも、癒しオーラ出してるからか沸点も異様に高い。
でも、人に迷惑をかける行為をする時だけ、オヤジの沸点は急激に下がる。
きっとこのときのオヤジはめちゃめちゃ怒ってたに違いない。
実際、家に帰るとオレの拳骨一発かましたくらいだから。
アレは本気で痛かった。


って、別にオヤジの拳骨の話はいいんだ。

その後、先輩から焼肉に誘われて焼肉行ってたって先生に言うと、先生はオレに厳しく注意をした。
「家庭教師を雇っただけで成績が上がると思うな。自分の努力も必要なんだ」と言われてしまった。
今まで優しくておもしろくて、姉ちゃんみたいな先生だったのに。
その瞬間、先生の目がすっげぇ鋭くて、ほんとうに怒ってんのが伝わってきた。
オレががんばんないと成績は伸びない。それは当たり前のことで、先生だけに責任を押し付けすぎていた。
それを分からせてくれたのが先生で、オレもその時、本気でがんばろうって決めた。
試合に一刻も早く出たいから。がんばるって決めた。



けれども、オレの実力は全然足りてなくて。
先生に直前に単語をたくさんの量の覚えろって言われてついつい弱音を吐いてしまった。
「無理」「できない」と決め付けてしまった。
どうせ、オレにとって英語は鬼門。50点くらい取れたら十分なんだ。
投げやりになっていると、そこでもまた先生の雷が落ちた。
このときの先生はマジで怖かった。オレを見捨てるようなこと、平気で言うし。
だから、オレもちゃんとしようと思って先生に「やります」って言ったけど、先生は許してはくれなかった。
先生の言うことにはすっげぇ説得力があって
「テニスも練習しないと上手くならない。それは英語だって同じことだ」「楽して点数稼げる方法なんてない」
先生はそれをオレに教えてくれた。
テニスもやったらやった分、英語もやったらやった分だけちゃんと自分に返ってくるって。
それが先生の1番言いたいことだと思った。
それに、オレはもう約束を破った。焼肉食いに言って約束破った。
今も、無理だって決め付けて約束を破った。
約束を破るなんて真田副部長じゃないけど、性に合わない。
した約束はどんな約束であれ、守らないと立海の、男の恥だ。



その日、またオレは先生と約束をした。
3度目のがんばるって約束。
3回目の約束はもう絶対に破らないから。
それからもう一つ。60点以上でご褒美をもらうこと。
とにかく、なぜだか先生に褒めてもらいたかった。
「がんばったね」って言ってほしかった。
点数が少しでも上がったら、きっと言ってくれるとは思うけど。





テスト当日。
なんと先生のおかげでサラサラと解けてしまった。
あまりにも解けるから、テストが終わったあと実感がわかなかった。



テスト期間が終わって、家に帰るとなんだか寂しい気がした。
飯食って風呂入って寝るってのが、テスト前までのオレの行動パターンだったんだけど
今までずっと風呂入る前に先生と勉強してたからな。
もう勉強しなくていい、て思ったらすっげぇラッキーたけど、先生に会えないって言うのが心につっかかる。
先生と勉強できないし、先生が家に来る事もない。
先生ともう約束をすることもない。






そう考えれば考えるほど、心の中がちくちくと痛む。
先生に会えないのに、すごく会いたくなった。
先生に褒められることもなくなるんだ。
悲しくなった。
悲しくてつらくて、泣きそうになった。










テスト返却。
先生から「切原、やればできるじゃないか!」と返してもらったテスト用紙には
84と書かれていた。
マジで嬉しかった。



先生の言ったことは間違いではなかった。
本当にやったらやった分だけ返ってきた。
すげぇ。マジでこの人、すげぇ。
全然英語が出来なかったオレにミラクルを起こしてくれた。



先生に会いに行こう。会えなくても会いに行きたい。
先生、オレ84点も取ったんだ!60点以上もあるなんて、初めてだ!!
これで大会にも出れるし、通知簿も期待できそうだよ!
本当にありがとう、先生。



嬉しさと感謝の気持ちを伝えたい。

それから






先生にまた、会いたい。

いや。これからもずっと会いたいんだ。








そう思ったとき、オレは確信したんだ。

オレは先生が好きなんだって。








ホームティーチャー!!! − 覚 醒 編 ー




手始めに名前で呼んでもらえるようにしよう!
アプローチはそれからだ